夕暮れの自転車屋にて

自転車がパンクした。

夕方、仕事帰りに近所の自転車屋に寄り、修理をお願いした。
自転車を店主に預け、店内にある椅子に座り暫し待つ。

途中電話が鳴り、店主が出た。
「6時までに来てもらわないと。6時で終わりだから」
相変わらず、ぶっきらぼうだ。
頑固親父というか、職人気質というか。
昔からこの店主のイメージはこんな感じだった。

修理が終わり、会計をしているとレジの横の張り紙が目に留まった。


『店主、体調不良のため、八月末をもって閉店させていただきます。
長らくのご愛顧、誠にありがとうございました。』


私は恐る恐る店主に声を掛けた。
「今月でお店を閉められるんですか・・・?」
店主の顔が、ふと緩んだ。
「小脳にね、こんな腫瘍ができてねぇ・・・」

自分の体調が悪いこと、
自転車屋なのに自転車に乗るなと医者に言われたこと、
息子がいるが遠くに行ってしまっていて自転車屋を継げないこと。
ゆっくりと話してくれたその表情は、今までの頑固親父の印象はなく、
柔和で穏やかだった。

「息子がね、継いでくれたらねぇ・・・」

そう言って、店主は苦笑いをし、そして寂しそうに自分の手元を見つめた。

私が子供頃からその自転車屋はそこにあった。
自転車屋と言えば、私の中ではこの店しかなかった。
空気を入れにきたり、油を注してもらったり、
先月も子供の自転車を点検してもらったばかりだった。

店主のそんな姿を見ると、なんだか無性にせつなくなった。
本当に残念ですけど、お身体お大事にしてください、と言って、私は店を出た。
そして、ありがとうございました、と。
あの頑固親父は、柔らかい笑顔で私を店の外まで見送ってくれた。


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おじさん、
おじさんの修理してくれた自転車、今日も絶好調だよ。
身体、大事にしてね。

今まで本当にありがとう。
そして、本当にお疲れ様でした。

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